「本を売る図書館」の両義性

夜の7時すぎ、海老名に用があったので、Googleの検索情報は16:50でその日は閉館になっているということだったが、スタバや本屋はまだやっているかも知れないと思い、散歩かたがたリニューアルオープンした海老名図書館に行ってみることにした。

海老名駅は、開発の進んでいる側とこれから、の側に別れる。図書館のあるのは人通りの少ないさみしい方である。

5分以上歩いて忽然と現れた文化会館と、隣接する図書館。近づくと、高校生とおぼしき連中が建物からちらほら出てくる。灯りも煌々としていて、人の動きも見える。市立中央図書館は21:00までの施設になった。それだけでも、お役所からの脱皮が伺える。

吹き抜けがあり、天井高の明るく解放的な空間。暖かみのある光。スターバックスの高いスツール。一息つくにはとても良い場所だと思う。海老名の駅を利用する人が、通いたくなる場所になるだろう、と思った。

図書館部分がCCCによって運営されていることは知っていたが、図書館と本屋との関係については深く考えることもなかった。分類についても、特に予断があったわけではない。

この施設は1階にコーヒーショップがあるのと同時に蔦屋書店もある。どちらかというと店舗スペースやカフェが目立つが、新聞、雑誌の閲覧スペースも図書館の本棚もある。図書館スペースが主体となるのは2階以上だ。だが、空間全体として本屋やカフェは区切りなく、図書館と一体化しているという印象だ。

僕はここは図書館だ、入る前に思っていた。ビルの表には「海老名市立中央図書館」としかでていない。何とかモールでもなければ、ツタヤビルでもなく、図書館だ。時折聞こえるアナウンスも「海老名市立中央図書館にご来館の皆様」という枕詞が入っていたように思う。

1階の空間を見てもなお、そこは図書館だ、という認識が支配していた。

だが、その認識が危うくなったのは、本屋もカフェも見えない、図書館のスペースで、検索機によって本を検索した時のことである。この検索機のトップ画面で、利用者はまず、「本を借りる」か「本を買う」かを選択する。「本を借りる」「本を買う」の表示は、画面の主要部分を同じ大きさで占めている。

この選択画面は二つのことを示唆している。第一は、この施設は運用者の如何を問わず、「本を貸す」機能と「本を売る」機能を(少なくとも利用者の印象としては対等なものとして)あわせ持っている、ということである。第二は、その検索画面を利用し続ける限り、二つの機能は存続するということである。

機能が一つなら「探す」で済むところを、二つの機能を「図書館として」抱えている、ということをこの検索画面が如実に物語っているのである。すなわち、この検索システムは、他の公共図書館とは異なるパラダイムに則ったものだ。

「売る」「貸す」の二つの機能がある場合、検索の利用者は「買う人」「借りる人」「買うまたは借りる人」の3様に別れる。試みに、探したい本が図書館の蔵書になかった場合に、同じ本が買えるかどうかを調べてみたが、「本を借りる」で入力した書名や著者名のデータはクリアされてしまい、再び「本を買う」として再び入力しないと探せなかった。つまり、この検索では、利用者を「本を買う人」と「本を借りる人」に厳然と区別している、ということになる。読みたい本があって、そこには本屋もあるのだからどちらかで入手できればいい、という人のユーザー体験は、心地よいものではない。

この図書館は「海老名市立中央図書館」というハコに、本の扱いを巡って、目的から見ると「公益と商用」、機能から見ると「貸し借りと売り買い」という要素が一体となって入り込んでいる。オーナーは公共を、現場・運用者はビジネスを代表していて、利用者は(市民であれば)納税者と消費者という二つの立場を使い分ける。サービスの享受という観点から、利用者は、有料利用者と無料利用者に別れる、とも言える。その体制の是非をここで問うつもりはない。

そういえば、1時間足らずの滞在中に、何度もアナウンスで利用者登録を促していたが、そこでは「海老名市以外の方でも登録・利用可能」ということが強調されていた。商売としてそこに参画している以上、「買う人」の呼び込みは当然だし、本の売り上げで利益をあげることも、何らとがめるべき筋合いはなかろう。

ただ、公益を損ねかねない独自分類の非公開や、今の段階でそれを採用することには、利用者としては大いに違和感を覚えた。穿った見方をすれば、非公開の独自分類は、他社の参入障壁を高めるための方策にもなりうる。

同時に、この分類に基づいた配架は、世に言う「汚い本棚」に思えた。しばらく眺めていたら、頭が混乱して気持ち悪くなったことは記しておきたい。

そして、帰るころには、ここは(図書館というよりは)大型書店だが、カフェとたっぷりの読書スペースを用意している場所、のイメージに変わっていた。

広告

大下文輔 について

Communication Strategist, Freelance
カテゴリー: 未分類 パーマリンク

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中