ゲームのリポジショニング (ジェーン・マクゴニガル「幸せな未来はゲームが創る」評)

Reality Is Brokenを原題とするこの本の、一貫したテーマであり、業績でもあるのが、ゲームのリポジショニングである。

ゲーム化もしくはゲーミフィケーションと呼ばれるゲームのメカニクスを諸分野に応用する試みや、シリアスゲームと呼ばれる現実の課題解決にゲームを利用する手法は、すべて本書で論じられているゲームのリポジショニングを前提としている。

ゲームは従来、それ以外の行うべきことをするための時間を奪う、よからざるものとして扱われてきた。非生産的で、現実逃避の手段であり、暴力や性といった非行を誘発したり、依存や中毒を招くものという見方が支配的であった。否、未だにそうである、とも言える。

ゲームに内在するそうした負の力も、方向を変えれば生産性の向上や現実変革の力となり得る。そのためにゲームというものを違った見方で捉えよう、との主張のもとに、議論を進めているのが本書である。著者が自らゲームのリポジショニングという直接的な表現を使っているわけではない。しかし、ゲームのリポジショニングがあって初めて、ゲームの現実への適用が可能になることは論を待たない。

そうした意図と直接関係する3つの文章が、本書のエビローグであるリアリティ・イズ・ベターに記されている

ゲームを単なる現実逃避の娯楽をやめる必要があるということです。

人生は厳しいもので、ゲームはその厳しさを和らげてくれるわけです。

わたしたちはもう、ゲームを現実の生活や現実の仕事とは関係のないものとみなしてはなりません。

ゲームへの認識を変えるべく、著者が用意した議論の枠組みが、現実とゲームを対比するという手法だ。本来ならゲームは現実世界の一部分に過ぎない。しかし、現実とゲームを同じ視点に据えて並べる、あるいは(理想的な)ゲームから見た現実世界の像を描く、ということによりゲームのもつ潜在的で途方もないパワーを感じさせることで、ゲームに対する見方を一変させようとチャレンジしたのが本書である。読んだ人の意見として、単純な二項対立と揶揄する向きもあるが、ゲームと現実世界という取り合わせの妙を道具立てにする発想自体に、僕はスケールの大きい遊びを感じとった。

著者は徹底してゲームを良きものとして捉える。結果として、現実世界の破綻をいかにゲームが修復するか、という茶目っ気のある–実は大まじめかも知れないが–14の可能性を示唆している。例えば:

現実修復法その4/よりよい成功への希望
ゲームと比べると、現実には希望がない。ゲームは失敗への恐れを取り除いて、成功のチャンスを高めてくれる。

現実修復法その7/心から参加すること
ゲームに比べると、現実は没入しにくい。ゲームは私たちに、自分のしていることにもっと深く参加しようという意欲を起こさせる。

すなわち、本書は、批判的検討も加えているとは言え、基本的にゲームに対する礼賛のオンパレードであるかのように見える。こうした論調は、PERMA(Positive Emotion、Engagement、Relationship、Meaning、Accomplishments)を重視するポジティブ心理学の影響を色濃く受けているものと思われる。人の行動から世界情勢まで変える、変えられる、変えてみせるという楽天主義に突き動かされている今のアメリカの状況が垣間見えて興味深い。そして、著者も指摘している次のことが、ポジティブ心理学が考える幸福論だと気づかされる。

私たちは、物質的豊かさは本物の幸せの源泉にはならないのではないかと疑問を感じはじめています。(中略)物質的豊かさではなく、経験や関係やポジティブな感情の豊かさを高めようとしています。

いずれにせよ、ARG(代替現実ゲーム)や、大規模ゲームにおける協働といった実例を通じて、ゲームの現実変革に及ぼす力を明らかにしながら、ゲームが決してネガティブな作用のみをもつ、単なる娯楽の域を超えた、有用なツールになるということを納得させてくれる。ゲームのリポジショニングに大きく貢献した、ということにおいて、この本は歴史に残るものと思われる。

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大下文輔 について

Communication Strategist, Freelance
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